第21回福祉工学カフェ「精神障害者を支援する福祉機器開発に向けて」参加メモ

2019年12月10に行われた第21回福祉工学カフェ「精神障害者を支援する福祉機器開発に向けて ~統合失調症のある人の地域生活を中心に~」に参加してきたので忘れないようにメモ。

はじめに

このメモは後藤が理解した内容を書いています。文責は後藤にあります。

参加の経緯

前日に知人のFacebookで紹介されていたこと、担当授業がなかったこと、そして、見聞を広めるために参加した。

福祉カフェの運営について感心したこと

障害者の方も参加されるイベントだからか、運営については大変感心した。

  • リアルタイム文字おこし用の人員を配置し、発表スクリーンの横に発言者の発言に表示していた。聴覚障害に対応。
  • 入退室自由。精神障害の種類(たとえばパニック障害など)によっては密閉空間&出入り制限という環境は非常にしんどい。入退室自由を明言し、実際にできることでそういう方々も参加が容易になる。
  • 食事禁止だけど、飲み物OK。これも精神障害の種類によっては服薬が適宜必要なので、服薬可能ということ自体が参加を容易にしている。
  • 休憩室を準備。調子が悪かったら休める体制になっている。
  • 会場はエレベータ&フラットな床だったので車いすの参加も大丈夫。実際に数名の車いすでの参加者の方がいた。

ちょっと残念だったこと

時間管理とフリーディスカッションの運営はいまいちだったかなと思った。参加者の特性からするといたしかたないかも。前半の発表について模造紙にイラストを交えながら議事録を作成していたので、フリーディスカッションは興味のある模造紙の前に集まって、そこで質疑応答した方がよかったのではないかなと思う。

プログラム

こちらにあるとおり。
www.nedo.go.jp

最初に説明があった福祉工学カフェの主旨が勉強になった。以下は私のメモ。

  • 厚生労働省に福祉工学専門官というポストができた。
  • 金がないので福祉工学カフェという形で始めた
  • 経産省厚生労働省が共催しているのは珍しい
  • 福祉工学カフェではユーザのニーズの一端を開発者側に知ってもらうことを目的の一つとしている。
  • 福祉工学カフェでは、ユーザと開発者側から報告をしてもらい、その後にフリーディスカッションを行うのが目的としている。(ディスカッションで何らかの結論を出すのが目的ではない)。

www.rehab.go.jp

第1部:精神障害者支援の概要、当事者による発表

最初の向谷地 生良 氏の講演「精神障害者の苦労と工夫」は統合失調症について知識がなかった私にとって大変勉強になった。特に当事者研究という概念を知れたのは良かった。

当事者研究では、当事者がかかえる固有の生きづらさ-見極めや対処が難しいさまざまな圧迫感(幻覚や妄想を含む)、不快なできごとや感覚(臭いや味、まわりの発する音や声など)、その他の身体の不調や症状、薬との付き合い方などの他、家族・仲間・職場における人間関係にかかわる苦労、日常生活とかかわりの深い制度やサービスの活用レベルまで、そこから生じるジレンマや葛藤を、自分の”大切な苦労”と捉えるところに特徴がある。そして、その中から生きやすさに向けた「研究テーマ」を見出し、その出来事や経験の背景にある前向きな意味や可能性、パターン等を見極め、仲間や関係者の経験も取り入れながら、自分らしいユニークな発想で、その人に合った“自助-自分の助け方”や理解を創造していくプロセスを重んじる。
当事者研究とは-当事者研究の理念と構成- (向谷地生良) より)

関連本を今度読んでみることにする。

当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく)

当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく)

つぎにこういう主旨のことを向谷地氏は話されていた。

  • 浦河べてるの家では、幻覚や妄想を当人の現実として受け止めて対応する。
  • 当事者研究を進めていくと確かに自分が見聞きしたと認識しているのにもかかわらず、それは幻覚や幻聴だったと認識できるようになる。
    • 例えば、相手が言っていない幻聴(たとえば「殺すぞ」)を言ってきたときに、一度、相手に確認をとり、確かに自分は「殺すぞ」と聞いたもののそれは幻聴であったということを認識できるように学習できる。
  • 仮説であるが、統合失調症の方々は、自分に認知のゆがみが生じているということを気づくという学習を繰り返す機会が十分でなく、社会から切り離されてしまうため、さらに認知のゆがみが生じていることに気づかなくなるという悪循環に陥っているのではないか。

これは、卒業研究を通して質問する/されるということを学生に訓練している立場からすると、腑に落ちる話。健常者&日本語話者&大学進学するような人たちでさえ、質問されることを叱責ととったり、自分への非難と受け取ったりするという認知のゆがみがあり、これを正すのにかなりの時間が必要(個人的には2年ぐらいほしい)なことからすると、健常者以上に知覚する情報が多く、個々人によって差が多く、かつ、一般的な学習手段が確立されていないのであれば学習に費やされる時間は膨大なものになるだろうと思う。

次の発表者は伊藤 知之 氏「生活のなかで使いたい支援機器・技術ピアサポートをしている当事者の視点から」。べてるの家の仲間たちにほしい支援ツールをインタビューし紹介してくれた。以下、私が解釈したメモ。

結構、現在の技術で実現できそうな印象。特にインテリジェントノイズキャンセラーは発達障害の方とか、集中したいときのプログラマーや文章書きの方々、子育て中の親御さんたちに結構売れそう。

3番目のみわ よしこ 氏「当事者がホンネで語るメンタルヘルス支援技術 ~ 期待と不安と」でのみわ氏の主張と逆の感想だが、統合失調症の方のICT関連の妄想や幻覚というのは現実世界の脅威をある程度反映させているので、先手をとってその妄想や幻覚が実現しないように技術的、システム的に対応していくのは社会の幸せ増大につながるのではないかと感じた。

第2部:開発者による発表

1つ目の発表、宮崎 善行 氏 「音声認識コミュニケーションロボット『Chapit』(チャピット)の活用」。

AIスピーカー精神障害がある方の支援ツールとしていろいろと使える可能性があると思う。一般用途で考えると安価&後ろに膨大なデータと計算パワーがあるGoogleAmazonに対抗するのは厳しいと思うので、別の用途がよいかなと思う。プログラミングのデバッグ支援(デバッグの際に相談するためのくまのぬいぐるみの代わり)とかどうだろう。

リハビリテーションの際に失敗するのが嫌だからリハビリしないというケースにこのようなICT機器が役に立つというようなエピソードについて確かになと思った。

2つ目の発表は三原 卓司 氏「Webシステムを活用した精神障害者の就労定着支援システム『SPIS』の紹介」。福祉支援ツールというのが一般社会のいろいろな用途に転用できそうであると認識させられた発表。

1. 調子がいいとき、悪いときを、目で見て確認していくことで、自己管理能力を育てます。

    • 長く安定して働いていくには、自己管理(セルフ・コントロール)が不可欠です。
    • 毎日の調子のよい、悪いを記録し、それをグラフで見ることを通して、自分で自分の調子を意識する習慣がつきます。それが自己管理能力を育みます。


2. 自分の状態をわかりやすく人に伝え、コミュニケーションを助けます。

    • 自分の状態を表したグラフやコメントを印刷して人に見せることができます。
    • 口ではうまく言えなかったり、すぐに忘れてしまうことも、きっちりと伝えることができます。

基本コンセプトが万人に共通な自分の調子のチェックリストではなく、超個人的チェックリストにより、自分自身への気づきを助け、職場の人たちが雇用された障碍者を理解するのを助けるというのはとても重要なことだと思う。研究室でも配属された学生について何を手助けしたらよいのか、自分が述べたことがどう受け取られているのかをしるのは学生と教員の双方において重要だと思う。

このコンセプトのネックは、フロアからの意見にもあったけど悪意や偏見ある職場だと自分の弱点をさらすことができないということ。自分自身への気づきのみに特化して、匿名化した形でスマートフォンアプリみたいにしたらよいのかもしれない。

第3部:フリーディスカッション

そこそこ発言したがあんまり良い意見は言えなかった。申し訳ありません。統合失調症の幻覚や妄想自体を仕事に役立てられないかという問いかけだったのでソフトウェア開発でつかわれるペルソナの作成の支援ができるのではないかと発言した。ただ、それが成り立つためには、 1) 幻聴のバリエーションが豊かである(たとえば、30代後半の銀行務めの女性という個性をもつ幻聴とか、属性を指定できるほどバリエーションがある)。 2) 幻聴にインタービューができる(ある程度、任意に幻聴を呼び出せる)。 3) 幻聴にインタービューしても当人の調子や症状が悪くならない。という条件を満たす必要がある。その後のやりとりを聞くかぎり、幻聴のバリエーションはそれほど多くなく、かつ、インタビューは難しいように感じたので、この提案は的外れだったと思う。
news.mynavi.jp

第1部において「幻聴や幻覚であると気づくのを支援するツールがほしい」という意見に対して、そういうツールは現在の技術なら作るのは可能だと思うが、スマートフォンアプリなどが「あなたの前には今は誰もいません」とか「あなたが聞いている声は幻聴です」と提示してきたとき、それを信じることができるのか(それ自体を幻覚と扱わないか?)という質問がフロアからあった。会の終了後に向谷地さんに個人的にこの点を質問したところ、そういうアプリを作っても、たぶん、利用者はアプリの方が壊れている(「このアプリはこの声を認識しそこなったんだな」)と判断するだろうとのことだった。一方で、べてるの家など、幻覚や幻聴があるものとして認識している気の置けない仲間同士の中にいると他の仲間の反応などをみて、「ああ、これは彼らに聞こえていない/見えないので幻聴/幻覚なのだな」と認識できる人も多いとのこと。

その他、やり取りを聞きながら考えたこと。説明が苦手な人は自分が何を話しているのかわからなくなり、まとめきれないときがある。先に何を話すのかをまとめるのを支援するツールがあるとよいのではと思った。その場で自分の話したいことを論理的に話しきるのは結構訓練が必要。

  1. 話したいことを単語レベルでよいのでとりあえず列挙する。Chapitなどのように音声認識で単語を列挙できるとよいと思う(字で書くことが大変な場合がある)
  2. タブレット端末上で、単語をグラフィカルに表示し(ポストイットやレゴマインドストームのように表示する)、自分が話したい順番に並び替える。うまい説明順番に並べる支援があるとなおよし。
  3. 並び替えたメモに従い説明する(あるいは構成されたメモを話し相手と共有する)。

以上、メモまで。